人生にとって非常に大事なのに、なぜか学校では教えてもらえないことの多くは実は、図書室で簡単に手に入ります。まさに灯台もと暗し。中高生はもちろん、大人にもぜひ読んで欲しい、繰り返し読みたくなる10冊を選びました。
14歳からの哲学
池田晶子
冒頭のわずか数ページで人類の問題の根源を提示し、前置きなしにズバリ核心を突いてくる著者の問いかけは痛快ですらあります。中学生向けに平易な言葉で書かれていますが、日々の生活に追われて考える余裕のない大人にも、立ち止まるための良い機会をくれるでしょう。
この本では、”Don’t feel, think!” とでも言うような、某香港映画とは真逆のことを言われます。考える。そう、とにかく考えるのです。それは初めは楽な道ではないかもしれません。しかしそれは問題の本質から逃げないことであり、ただ悩み続けることとの決別であり、結果的には問題解決の近道になることでしょう。
モモ
ミヒャエル・エンデ
エンデの童話の中では「はてしない物語」を最も推したいのですが、作家のメッセージがより強く出ているのはこちらかと思います。「灰色の男たち」みたいな大人が増えてしまったと思いませんか。自分がどう生きるべきかを強烈に問いかけてくる本だと思います。
1980年代の訳のせいか、小学5〜6年以上対象のわりに古めかしい日本語や文語調の言い回しが随所にあり、これって童話だよね?と思わされることもありますが、物語は十分に楽しめます。(もしかしたら文庫版では更新されているかもしれません)なんと今はKindle Unlimitedに含まれているようなので、サブスクでも読めます。
インターネット(岩波新書)
村井純
30年前の本ですが、基本中の基本がすべてここにあります。若者には必読の古典として、まずここから始めて欲しいですし、時代に置き去りにされてしまった大人たちにもぜひ読んでいただきたいです。その辺のユーチューバーやタレントには到底語ることのできない「文化」を受け継いで欲しいのです。村井先生はそういう話をしてくれます。
電子書籍が無いのが残念ですが、当時あまりにも売れた本なので今なら○ックオフで100円ほど、Amazonでも2円+送料で手に入ります。2円て!
ウェブ進化論(ちくま新書)
梅田望夫
21世紀以降の「Googleの波」に飲み込まれてなぎ倒された人々と、それにうまく乗っていけた人々の差は何でしょうか。本書でインターネットがどれほど人々の生活を変えてしまったかを再確認すれば、両者の差がよく分かるはずです。
岩波の「インターネット」と並び、本書は若者にとっては重要な古典になるでしょう。そして2000年から20年以上、何も学んでこなかった大人たちも、まだ間に合います。本書も続けて読むと良いでしょう。
国際貢献のウソ (ちくまプリマー新書)
伊勢崎賢治
高校生にもなれば、そろそろ世の中が「大人の事情」で動いているという不都合な真実に気づいてくる頃でしょう。そしてさらに大きな問題は、大人たちもその「大人の事情」をよく理解できていないので、子どもたちに教えることができない、ということです。
著者はNGO、JICA、国連、ODA、そして9条と自衛隊の痛いところを突き崩し、日本の国際協力ボランティアも歯切れよく痛烈に批判します。「こういうことをもっと早く教えてほしかった」と思うような人道支援活動の表と裏、建前と本音、理想と現実を分かりやすく解説してくれます。
ちくまプリマー新書はヤングアダルト向けらしいですが、高校生なら十分読めます。「あとがき — 日本の若い人たちへ」には留学のすすめもあり、そちらも若者とその親達にぜひ読んで、考えて欲しいと思います。
社会調査のウソ
谷岡 一郎
『世の中に蔓延している「社会調査」の過半数はゴミである』
これがすべてを物語っています。ゴミがゴミであることを見抜ける力が欲しくはないですか。リテラシーという言葉が普及して久しいですが、一方でフェイク・ニュースという言葉も生まれた昨今、虚偽の情報に騙される人はむしろ増えているのではないでしょうか。騙されないためのリテラシーを若いうちに身に着けて欲しいと思います。
ソーシャルメディアを見ていても、明らかにリサーチ・リテラシーの訓練を受けていない人が「アンケート調査」と称して稚拙な入力フォームをばら撒いているのをよく見かけます。自分がゴミを増やしている自覚が無いからです。学問する者として、こんなに恥ずかしいことはないでしょう。まずはこの読みやすい新書から始めませんか。学部生、大学院生、教職員、学問に携わる人間は必読。
戦後史の正体
孫崎享
「国際貢献のウソ」「社会調査のウソ」ときて、本書は「戦後史のウソ」とでもいうべき、ある意味で暴露本のような力作です。「日本は降伏したのです。たんなる終戦ではありません」から始まり、敗戦から今日までの戦後史が、日米関係を軸に高校生でも分かるように書かれています。これは大人も必読かと思います。
学校教育における歴史はまったくもってお粗末です。なんちゃら原人から始まって中世から世界大戦までの話ばかりで、そもそも学期内に戦後史〜現代史にたどり着くようなカリキュラムになっていません。だから歴史が今この瞬間と地続きであるという実感も教訓も得られず、例えば選挙でどこに投票すればよいかを歴史を踏まえて考えられる大人が育たないのです。これは個人の能力というよりも、構造的な問題です。
不幸にしてまともな歴史教育を受けられなかった多くの現代人が本書を読めば、目の覚める思いがすることでしょう。
複雑系
M・ミッチェル・ワールドロップ
現実は小説よりも云々、と言いますが、まさにそれを地で行く壮大なドキュメンタリー映画のような科学ノンフィクションの傑作です。世界中から集った天才科学者たちと、米国の名門大学や研究所の名前が一通り学べるという意味では便利な本とも言えます。訳文特有の文体もあり中高生には少し難解かもしれませんが、背伸びしたい子には読ませたい1冊。分厚いので文庫版がおすすめ。
フェルマーの最終定理
サイモン・シン
科学ノンフィクションでヒット作を連発する著者のデビュー作。20世紀最大の数学の難問が解かれるまでを追う、またしても壮大なドキュメンタリー映画のような読み物です。数学の知識は不要。栄誉あるアンドリュー・ワイルズその人もさることながら、1人の数学者が他の研究者には内緒で世紀の難問の証明に挑む、そんな孤独な闘いの物語にもかかわらず、ここまで読み応えのある本に仕立ててくれた著者の力量にも感服です。
ご冗談でしょう、ファインマンさん(上下巻)
R. P. ファインマン
天才物理学者リチャード・ファインマンの愉快な自伝です。幼少の頃からのいたずらの数々をこれでもかと自慢するような内容が目立ちますが、あきらめずに創意工夫や問題解決を探求する姿勢、専門外の分野にも興味を持って取り組むオープンで柔軟な姿勢が随所に垣間見られます。
語学教師の人には、彼がでたらめなイタリア語を話すエピソードが傑作なのでおすすめです。
おまけ:風の谷のナウシカ 全7巻
宮崎駿
映画しか知らないという人が多い本作ですが、実は映画化されたのは最初の1〜2巻程度の内容です。作者の宮崎駿は、最後の7巻のメッセージを伝えるためにこのマンガを書いたのだと思います。ぜひご自分で最後まで読んで確かめてみてください。
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